スキップしてメイン コンテンツに移動

日本のものづくり力の行方?

 昨日配達された「週刊朝日2017929日」に「自動車の世界市場で日本勢包囲網 - 一強トヨタも絶体絶命」というかなり刺激的な記事が掲載された。少し乱暴かもしれないが、我が国の大企業は、既存の系列企業との関係や莫大な開発費をかけて従来から培ってきた既存技術へのこだわりなど様々なしがらみから抜け出せずもがいているうちに、ドイツをはじめ海外自動車産業界はEV化へ向けて着々と手を打っているぞ、という、日本の自動車産業に対して強く警鐘を鳴らす内容である。
 その中で、注目を引いたのは、「『我々が直接クルマを作る必要があるのか』。VW社内では今、こうした議論が盛んという。 あまり知られていないが、実はVWが自らクルマを作らなくても、立派に生産できる仕組みをドイツの自動車産業は持っている。 量産以外の開発から試作までを請け負うエンジニアリングサービス会社が台頭しているからだ。ドイツのFEV社や隣国オーストリアのAVL社などで、その開発能力はVWにも負けない。 実際、ホンダが新型シビックのエンジンをAVLに開発委託したほどだ。」という。 そして、ドイツのバーチャル設計力とシミュレーション技術力に対し、日本はそれらを軽視してきたことが、自動車王国日本がEV化への対応に大きく遅れた原因ではないかと(筆者理解要約)。 ドイツのみならず、フランスとイギリスがガソリン車の販売禁止策を打ち出し、中国もEVへの移行を決めて、米国もテスラモーターズに代表されるようなEV化への流れがほぼ確実である。 
 なぜこうなるのか、なぜ日本のEV化への動きがこうも鈍いのか。 ドイツは、2006年に「ハイテク戦略2020」を定め、そのアクションプランとして2011年に「インダストリー4.0」政策を発表し、爾来、IoTAI技術、ソフト開発技術などの先端技術を用いてドイツの産業構造そのものを大きく変える努力をしてきた。 日本は、2011311日の大震災と福島第一原発事故という大変不幸な事態に直面したことが、先進技術による産業構造変革へ向けて大きく踏み出す力を削いだことは否めないとは思う。 だが、しかしその時こそ、日本の未来を見据えてこの国をどうするかを考え行動に移す貴重な機会の筈であったが、未だにその歩みは極めて遅い。モノづくりの国、日本には、素晴らしい技術が多くあり、個々の要素技術を集積すれば欧米に十分太刀打ちできる筈である。 然し、それらの要素技術を統合し、国の産業構造を変えるほどの大きな力にはならない。おそらく、大企業頼みの現状では、大きな変革は難しいのではないかと思う。
 ならば、技術力のある中小企業や大学との連携により、小さな動きから始めてはどうか。何も自動車産業に拘ることはない。如何なるニーズにも速やかに応えるモノづくり産業体を創設する、大企業では出荷までに一年かかるような製品と同等以上の品質のものを僅か数か月で出荷出来るような、小回りの利く中小企業ならではの仕組みの実現である。 このことに関しては、少し古くなるが、筆者と仲間たちで様々な角度から検討し2011年秋に書き上げた【東日本大震災以降 - 新しい社会の創生へ向けて】と題する提言集の中の一提言として記した。 その提言集を昨年(2016年)夏から秋にかけて5回連載で「BigLife21」という雑誌に掲載して頂いたが、その連載第3回目、「ITがもたらす総合知を活用 ・・・ 活力ある社会への挑戦」と題した小論で触れており、同文が「BigLife21」のインターネットイトに再掲されているので、参考にして頂ければ基本的な考え方をご理解いただけるように思う。


 欧米に比べて少し出遅れているが未だ間に合うと思う。 技術を有する我が国中小企業集団の奮起に期待したい。

09/17/17

コメント

このブログの人気の投稿

我が国メディアに期待すること 

  昨日は安倍元首相の「国葬儀」が行われました。テレビも新聞も殆どのメディアはその「国葬儀」の様子を伝えながら、国論を二分した「国葬儀」の意味をどこに求めるのか控えめに報じていましが、核心に迫る報道は殆どなかったように思います。実は、筆者はテレビや新聞をさほど見たり読んだりしていたわけではありませんので、認識が誤っているのかもしれませんし、もしそうであれば結構なことなのですが。  核心とは、つまり保守本流を標榜している自由民主党総裁として安倍元首相が何を成したのかということです。では「保守」とは何か、東京工業大学教授の中島岳志氏は次のように述べておられます。「保守とは、イギリスの政治家エドマンド・パークのフランス革命批判を嚆矢とする思想で、設計的に社会を改造しようとする進歩主義への懐疑を共有する。保守思想家たちは、理性に対する過信を諫め、急進的な改革主義に待ったをかけてきた。革新は歴史の風雪に耐えて残ってきた良識や経験値に基づいて斬新的に進めるべきであり、『その国独自の歴史的伝統や慣習の保持、人々の生活に根付いた文化や宗教的意識の継続性』を大切にしなければならないと説いてきた。」(東京新聞2022年9月27日夕刊)  安倍元首相は、実に多くのことを仕掛けてこられましたが、その結末がどうであったか、筆者には、保守政治家を標榜なさりつつもこれまでにないほど米国との距離を縮め米国の従者のごとき国家像を追求されていたように見えます。  更には、今年7月8日に安倍元首相が凶弾に倒れてから急に表面化した韓国旧統一教会と日本の政治家とのかかわり合いがあります。自由民主党国会議員の半数近くが濃淡の違いはあるにせよなにがしかの形で旧統一教会とのかかわりを持ったとされています。これにより、旧統一教会による日本政治への関与が懸念され、此処にも自由民主党の本来的な意味における「保守性」が維持されていたのかどうかという疑念が湧いてきます。又、その教祖の発言を記録したといわれる分厚い書物には「日本人は韓国に貢ぐべし」といった主旨の記述もあるといわれています。日本人が”寄付金”として貢いだ額は莫大な額に上り、メディアでは専ら過去の寄付金を募る方法が霊感商法にあったとする点に集中しています。 無論、霊感商法の”被害者”の方々は本当のお気の毒なことだったと思いますが、我が国メディアには同協会と日本政

起業家支援インフラ

米国には起業家支援の仕組みがしっかりと根付いていることは、良く指摘されるところだ。 数多くあるベンチャーキャピタル、小さな企業をも紹介する膨大な数の企業を掲載するポータルサイト、新たな技術や企業を適正な基準に基いて評価する組織(例えば ガイドワイヤグループ )や、新しい技術の発表の場を提供するイベント企業(例えば DEMO )などなど。 これらの組織は何れも民間事業である処に、米国の支援組織が如何にしっかりと社会構造の中に組み込まれているかを物語る。 さて、わが国日本は。 論を待たない。 3/12/08

総合知の活用で活力ある社会を実現

先日、 私が所属する非営利団体の一分科会が、今後の日本をどうするべきか、提言書を纏めた。その全文をこのブログに掲載する訳にはいかないが、ICT の切り口からどの様なことが出来るのか、近未来にありうる情景を短編小話風に書いてみた部分を以下に転載する。尚、提言書全文は、 南山会分科会ファイル に収められている。 =========00===================00==================00========== <総合知の活用で活力ある社会を実現> IT バブルの崩壊で明けた 21 世紀であるが、 IT (情報技術)の進歩は止まるところを知らない。それが真価を発揮するには、通信インフラが欠かせないが、東日本大震災で壊滅的被害を受けた通信設備も、電話や光回線等、基本部分は僅か 2 ヶ月足らずで復旧した。今後の復興過程では、更に堅牢で高機能な通信インフラが整備されていくに違いない。 IT で様々なものが繋がる巨大なネットワーク、そこには、広大な情報、知恵、多様な文化を持つ人々が存在する。今後、ネット上の情報発信者の数は急増するだろう。そして、発信される情報間の相互作用が始まると、とてつもなく大きな総合知、創造知が生まれる可能性がある。 我国発展の源泉は、従来もこれからも優れた人的資源と豊かな技術力である。 IT ネットワークは、そのパワーを増幅し日本国民が活躍する場を提供してくれる。今や携帯電話は一人に一台、しかも猛烈な勢いでスマートフォンが普及している。子供から老人までがネットにアクセスする時代であり、 IT に対する日本人の親和性は非常に強い。日本人の特質とされる高い受容性と応用能力に、東北人独特の粘り強さが相まって、 IT を高度かつ広範囲に適用すれば、被災地東北は以前より遥かに強くなり得るのである。今こそ、その潜在力を活用すべき時であり、それを為さねば彼我の競争力には大きな差がつき、我国は国際社会において著しく後れを取ることになるかもしれない。 我々はそのように考え、ここに IT がもたらす総合知を活用する為の、斬新な発想のアプリケーションの開発とその実証実験の実施を提言したい。最新 IT の活用が被災地復興・強化の一助となり、未来志向の産業のあり方を確立、魅力ある雇用を創出し大都市へ流出した労働人口を呼び戻し、新しい社会の